「こちらからの質問はこれで終わりです。そちらからのご質問は何かございますか?」
こう聞かれたので、僕は即座に手帳を取り出し、用意してきた質問を確認しました。
質問というものは難しいもので、質問の内容によって、相手の面接官は応募者の品定めをします。
あまり愚かな質問をすると、「こいつ、よくわかってないな?」と思われるし、あまり突っ込んだ核心をついた質問をすると、「こいつ、なんか鋭くてデキそうなやつだな。でも入社したら、うちらの立場を脅かしそうだな」などと思われるし、長々とたくさん質問すると、「こいつ、なんだか面倒くさそうなやつだな」などと思われるし、本当に難しいです。
ですから、数々の失敗経験をしてきた僕としては、その面接官の職務に合った、答えやすくて、喜びそうな質問をすることにしています。
相手がそれなりの役員クラスであれば、今後の会社の長期ビジョンなどを質問し、人事担当者であれば、人員採用計画や各店舗への人員配置計画などを質問し、店舗開発担当者であれば、今後の出店計画や出店重点エリアなどを質問したりしています。
今回の面接官は、執行役員でかつ店舗開発・FC開発部長なので、今回用意した4つの質問はバッチリでした。
まず、「様々な企業・業態の店舗再生を手がけられていますが、この企業・業態だったら、テコ入れして再生させればうまくいくと考えるポイントは何ですか?」とこの会社が主に行っているM&Aにつき、質問しました。
執行役員クラスであれば、こういった質問はよくされているだろうし、喜んで答えそうな内容なので、食い付いてくるだろうと考えていました。
しかし、先方は、特に表情もなく、「その企業が持つ店舗の立地特性と、人の質に着目しますね」とそっけなく答えました。
これはちょっと外したかな?と思いましたが、気を取り直し、今度は無難に組織のことについて質問しました。
「グループ企業を数社お持ちですが、今回募集の店舗管理業務は、各グループ企業の同じ店舗管理部門の方々と協力して行うのでしょうか?」
先方はまたも表情をほとんど変えず、答えました。
「グループ企業には、店舗管理部門はありません。当社の店舗管理部が一手に担う形となります」
さらに僕は質問しました。
「店舗管理部は何人の方がいらっしゃるのですか?」
「はい、私を含めて二人です。先程も申し上げた通り、もう一人は契約管理担当者で、今月いっぱいで辞めてしまいます」
(ああ、さっき会社説明の時に、話してたなあ。同じ質問をしてしまったなあ)
さっき話したのに、オレの話を聞いてないのか?と思われるかもしれないと、ちょっと凹みましたが、こういう時に凹むと終わりなので、めげずに質問を続けました。
FC開発部長でもあるので、これに関する質問をして、立て直そうと考えました。
「FCの場合、物件の契約締結は、FC企業が契約当事者となって、ビルオーナーと契約するのですか?物件開発や更新・賃料交渉はFC企業が主体となって行うのですか?」「ケースバイケースですね。FCの規模は大きな法人から個人まで様々だが、いずれは大きな法人へのシフトしたいですね」
用意してきた質問も尽きて、特に話が盛り上がる気配も無いので、質疑応答は打ち切ることにしました。
最後に軽い雑談となり、先方が、「うちは若い会社で、実は仕組みがあまり出来ていない会社なんですよ。それに来年上場予定なので、その準備でとてもバタバタしています」と何気なく言いました。
私はそれを聞いて、以前同じような会社に在籍したことがあったので、「私は以前R社という会社に在籍していたことがあるのですが、この会社も同じように仕組みがあまり出来ていない会社で、やはり同じように上場直前の時期に入社したので、大変な状況でした。ですから、そのような状況には慣れております」と答えました。
すると、先方は「ホー」という感じで、「R社ですか?私はB社にいたんですよ」
B社?B社といえば、ベンチャー企業支援会社で、コンサルティングなどを行っていて、僕のいたR社はそのB社のクライアントでした。B社とは仕事上散々付き合ってきた仲でした。
「そうなんですか?いつ頃在籍していらしたのですか?」
「2000年頃ですね」
2000年といえば、僕がR社でバリバリと働いていた頃で、B社とは毎日のようにやり取りしていました。
「そうですか。B社にはいろいろとご指導頂いて、大変お世話になりました。Nさんという方がR社の担当責任者でした」
しかし、先方はこう答えました。
「そうなんですか。私は仙台に赴任していたので、東京のことは一切知らないのですよ」
話はそれで終わり、特に盛り上がることもなく、面接を終えて、この会社を後にしました。時計を見ると、約35分、面接時間としてはとても短い方です。
駅に向かう途中、Wさんに何気なく聞いてみました。
「今回の面接、感触はどうですかね?」
すると、Wさんは「実務経験もあって、宅建資格保有者は、喉から手が出るくらい欲しいらしいので、大丈夫だと思いますけどね」と答えました。
私は、あまり良い手応えを感じなかったので、その言葉を聞いても、「どうかな?」としか、思いませんでした。
「それでは!」地下鉄駅階段前で、Wさんと別れました。